ちとちとについて

一番最初に「ちとちと」の元となる構想を考え始めたのは、2012年のことでした。

東日本大震災から間もない頃で、原発事故に大きく衝撃を受け、一体どういうことなのだろう、と考えていたのですが、その過程で、ある架空の街の歴史をテーマにしたコンセプトアルバムというのを思いつきました。

当時の僕は、それをテーマにすることで、日本の近~現代の地方で何が起こってきたのかを紐解き、これからどうしていくべきなのかを考えたい、という気持ちでした。

今考えるとあまりに大きすぎるテーマという気がしますが、本気でした。


「北白木市」という茨城県北部にある架空の街を考え出し、とにかくそのコンセプトにしたがって色々なことを調べたり、実際に現地に行ってみたりし、曲もいくつか作ったのですが、そうやって進めていくうちにあることに気がつきました。

「俺、全然話作れない…」

色々設定だの、ストーリーだのを考えてみるのですが、どうしても上手くいかず、紆余曲折ありつつ結局そのコンセプト・北白木サーガとでもいうべき壮大な構想は崩れ去り、単純にいえば、あきらめました。


しかし、その残骸とでもいうべき残った曲たちから、「ちとちと」というアルバムが出来上がりました。

「地方」をテーマにする、というのは当初と変わらず、曲を作る上で考えていた雰囲気も、北白木の舞台と考えていた辺りへ行った時に見た風景にとても大きく影響を受けました。

くぐもった空、廃墟のパチンコ屋、ぬるく塩辛い風、国道沿いのファーストフード店、長く放置されて草ぼうぼうの更地、そういったもの。


地方では、原発に関することは元より、過疎化や高齢化といった問題も加速度的に深刻さを増し、僕自身地元に帰るたびにどんどん寂れていっているというのを強く感じていて、そういった状況の中で、10年代の音楽がシティポップなどアーバンな方向に大きく振れていることに対して違和感がありました。

もちろん山下達郎さんや大滝詠一さん、ティン・パン・アレー関連、渋谷系などは大好きだし、大きく影響を受けてきたのですが、自分のルーツを考えれば考えるほど、そういった都会の恵まれた環境の中で生まれてきた音楽や音楽家達との大きな差異を感ぜずにはいられませんでした。


地方には、今ではすっかり忘れ去られてしまったもの、時代に取り残されて見向きもされなくなったもの、そういうものたちが、誰からも顧みられることなく、雨ざらしのままゴロリと道端に転がっていました。

そして、そういうものを少しずつ拾い集めて「ちとちと」という作品が出来上がりました。

拙い、音質もクオリティも全然高くないと自覚しています。

しかし表現したかったエッセンスというのにはある程度までは近づけたのではないかなとも思っています。


実際に聴いて感じてもらうのが一番いいのですが、この文章によって少しでも「ちとちと」を楽しんでもらえる手助けになれば光栄です。

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