中学二年の頃、はじめて自分で買った洋楽のCDがキングクリムゾンのベスト盤だった。
キングクリムゾン、というバンドは世間ではプログレッシヴ・ロックというジャンルに分類されていて、ロックの文脈で言えば、1969年に「クリムゾン・キングの宮殿」というアルバムでデビュー、当時解散間近だったビートルズなどと入れ替わりの様な感じで音楽シーンに登場、実験的かつ斬新な音楽で評価され、その後のプログレッシヴ・ロックの隆盛に先鞭をつけた、とされる。
プログレッシヴ・ロック(以下プログレ)というのは、クラシック、ジャズ、現代音楽などのそれまでロックとはあまり混ぜられてこなかったジャンルの音楽を掛け合わせた実験的な音楽であり、複雑な構成の長尺の曲や、組曲の様なものも結構多い。
(異論もあると思うが)
まあとにかく、そういう文脈や情報などはもっと詳しい人もたくさんいるし、あまり深く書かないが、そのようなジャンルがある、ということだけおわかり頂ければと思う。
ド田舎の中学生がなぜそのような、世代でもなく、同級生の誰も聴いていないような音楽のCDを買ったのか、ということであるが、きっかけはいくつかある。
まず最初に、中学一年でギターを始めたこと。
これは兄と一緒にだったのだが、親にアコースティック・ギターを一本買ってもらい、練習を始めた。
しかし当時はインターネットやYouTubeなどといったものもなく、教則本を解読しながら、合っているかどうかもわからない弾き方の練習を続けることに限界を感じ、ついに教室に習いに行くことになった。
その教室の先生や、共に生徒だった他の大人たちに色々な音楽を教えてもらったりし、だんだんと古い音楽に興味が出てきた。
ある時先生が「これやってみない?」と持ちかけてきたのが、エリック・クラプトンの「ティアーズ・イン・ヘブン」という曲であった。
折しも当時、同じくクラプトンの「チェンジ・ザ・ワールド」が大ヒット中であり、兄は特にその曲がお気に入りで、いつも聴いていた。
ということですぐさま「ティアーズ・イン・ヘブン」をやることが決まり、二人して先生から貰ったテープを聴きながら「なんて良い曲だ」と感動し合ったのであるが、兄から速攻で「俺クラプトンのCD集めっから、お前マネすんなよ」と言われた。
そして兄は「エリック・クラプトン全アルバム解説」といった本を買い、それを参考に、デレク&ザ・ドミノズ、ヤードバーズ、クリームや、ソロの「安息の地を求めて」「アナザー・チケット」などのアルバムを手に入れ始めた。
僕も正直クラプトンが集めたかったが、兄に禁止されているし、でもうらやましいしで悔しくて仕方なかった。
その頃家で取っていた地元の新聞に「水曜ヤング」(略して水ヤン)というポップカルチャーを紹介するようなコーナーがあった。
タイトル通り毎週水曜日に、音楽ランキング、マンガ売上ランキング、クロスワードパズルなどが載っていて、田舎の十代にとっては楽しみの一つであり、貴重な情報源となっていた。
そんなある日、その水ヤンのコラムに「キングクリムゾン」というバンドの解説記事が載っていたのである。
何だろうなこれ、と思いながら読み終わった後、はじめて目にした「プログレッシヴ・ロック」という言葉の響き、そして、クラシック、ジャズ、現代音楽などとロックを混ぜ合わせたという実験的な音楽性、などと書いてある、難しそうな解説に魅了され、クラプトンを奪いとった兄の鼻を明かすのにこれ以上のものはない、と思った。
「俺、キングクリムゾンなんてコアなバンド、プログレッシヴ・ロックなんてジャンルのすごい音楽聴いてるんだぜ」と吹聴し、「そんなマニアックなものを聴くとは、お前もなかなかやるじゃないか」と認められるのを望んでいたのである。
今考えると非常に中二病的な感じであるが、当時は兄やギター教室の大人たちに「すごい」と言われること、それこそが本懐であった。
当時、市内の寂れた商店街の中にあった「マスダレコード」という店に親に連れて行ってもらい、先述のベスト盤を買った。
2500円くらいだったと思うが、お小遣いを貰っていなかった身としては、かなりの出費だった。
僕がキングクリムゾンを手に取ったのを隣で見ていた兄は「お前そんなの買うの」と冷ややかな目を注いでいたのであるが、とにもかくにも憧れのバンドのCDを手に入れた僕は、早速中を開き、一曲目の「二十一世紀の精神異常者」というタイトルからいかにも中二の喜びそうな曲名を見て興奮し、ライナーノーツの解説も良い感じに小難しくて心をくすぐられ、楽しみで仕方なかった。
で、家に帰って兄の部屋で一緒に聴いたのであるが、いざ曲が鳴り始めてからの印象は
「…何これ…?」
であった。
まず曲が超長い。(7、8分くらいであったと思うが、当時はそんな長い曲を聴いたことがなく、びっくりした)
そして歌があまりなく、ずっと退屈な演奏が続き、全然おもしろくなかった。
(はじめて聴いた中学生の印象なのでお許しを)
不協和音が多く、全体的に暗澹としていて、ポップでキャッチーな曲が全くなく、とにかく暗く憂鬱な気分になった。
最初の3曲くらい聴いたところでプレーヤーを止めた。
兄には「お前なんでこんなの買ったの」とニヤニヤしながら言われ、悔しさのあまり、毎日聴いた。
聴きまくった。
俺の2500円、なけなしの2500円分の価値を見出さねば…!!と必死であった。
で、だんだんと長尺にも、よくわからなかった演奏ばっかりの部分にも慣れてきて、「お、これいいやん」みたいな曲も出てきた。
アルバム中の「エピタフ」という曲の一節、「混沌こそ我が墓碑銘」という歌詞を座右の銘にしようかと思っていたことすらある。
(ちなみにこの曲ははじめて聴いた時、ルパン三世のエンディングテーマを思い出した。狂った朝の怒りにも似た〜ワルサーP38〜のヤツ)
だが、最終的に内容の陰鬱さや不協和音がどうしても好きになれず、当時学校でいじめられていた思い出と相まって、どうにも暗い中学時代を思い起こさずにはいられない状態となり、だんだんと棚の隅で埃をかぶり、全く顧みられなくなってしまった。
未だにプログレというジャンルでちゃんと聴いたのは、そのCDとピンク・フロイドの「狂気」というアルバムだけである。
「狂気」もやはり中学時代にプログレつながりで買ったものだ。
個人的に音楽はジャンル問わず聴く方だと思うのだが、プログレというジャンルはたぶんこれからも聴かない気がする…
今さら中学のトラウマ云々もどうでもいいんだけど、何となくね…
ベスト盤自体は何度か聴き返していて、改めて好きな曲、カッコいいなと思う曲は何曲もあります。
二十一世紀の精神異常者はもとより、エピタフ、クリムゾンキングの宮殿、スターレス、エレファント・トーク、ハートビートetc.
兄がこの曲めっちゃカッコイイよね、と言っていて、自分も好きだったキャットフードという曲が、ビートルズの「カムトゥギャザー」のオマージュだったというのも、だいぶ後になって知りました。
順番逆やろっていうね。
しかし、カニエのアルバム「My Beautiful Dark Twisted Fantasy」で二十一世紀の精神異常者がサンプリングされていたのは上がったなぁ〜
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