エスパー

肉じゃが、おでん、チャプチェ、牛丼、炊き込みご飯、すき焼き。

最近の我が家の夕食のメニューである。


一見何の変哲もなく思える献立なのであるが、どうもおかしい。

ママに特に変わった所は見受けられない。

パパも普通だ。

亮介も、何も感じてないらしい。


しかし、しかしである。

どのメニューにも、しらたきが多く入りすぎている。

全体の半分とまでは言わないが、三分の一くらいはしらたきだ。

しかもそれが毎日である。

安売りで買いすぎたにしても、度を超えている。


この前ママに

「最近しらたき多すぎない?」

と言ったら

「あら、そう?でもアンタ最近太ったって言ってたんだから、ヘルシーでいいじゃない」

と言われた。


今日のメニューは何だろう、とキッチンを覗いてみる。

ママが何か炒めている。

フライパンにちらっと目をやると、やっぱりしらたきだ。

しかも尋常じゃない量。

どれだけしらたきがあるんだろう。

でも冷蔵庫の中にしらたきは見受けられない。

ということは毎日買っているのだろうか。


「ママ、またしらたき…」

思わず口に出てしまった。

「アンタ、この前もしらたきがどうこう言ってたけど、しらたき嫌いだったっけ?」

「いや、別に…」

ママに深く問い詰めることもできず、会話は終わった。


夕食はしらたきのサラダにしらたきのきんぴら、メンチカツ、豚汁。

全てしらたきが入っている。

パパも亮介も全然気にしていない。


その夜、お風呂場の排水溝に、しらたきが引っかかっているのを見つけた。

なぜそんな所にしらたきがあるのだろう。

少し、気持ち悪くなった。


翌日。

夕食はしらたきの天ぷら、しらたきの煮付け、しらたきの和え物、しらたき入りの味噌汁。

心なしか家中にしらたきの匂いが充満している気がした。

もう我慢できない。

私は一刻も早くしらたきから解放されたい、そう思った。


「ママ!」

私はテーブルを叩きながら立ち上がった。

テレビに目をやっていたパパは驚いた顔でこっちを見、亮介は怪訝そうな目を向けた。

「何?」

「また今日もしらたきじゃん!」

「どうしたの急に。」

「パパも亮介も毎日毎日しらたきばっかりで、変に思わないの!?」

「そうだっけ?パパは全然気づかなかったなぁ。」

「昨日も、一昨日も、その前もその前も、最近ずっとしらたきじゃん!お風呂場にもしらたきがあったし、家もしらたき臭いし!」

「姉ちゃん大丈夫かよ…」

「最近学校で何かあったの?」

「いじめられたり、嫌なことがあったらパパに言うんだぞ。」


しかし次の日、腹痛ということで学校を早退し、こっそりと家に帰った私は、見てしまった。

ママがお風呂場のシャワーから、しらたきを出していたのである。

いや、正確に言うと、シャワーから出ていた水が、しらたきに変わったのだ。


「ママ…」

「あずさ、どうして…」

ママは手に持っていた、しらたき入りのボールを落とした。

「何でシャワーから、しらたきが…」

「アンタがおどかすからしらたき落としちゃったじゃない。どうしたの、学校は。こんな時間に帰ってくるなんて…」

ママはボールを拾い、落ちたしらたきを入れ始めた。

「ねえママ、どういうこと、シャワーからしらたきが出てたよ…。」

「…バカねぇ、そんなことあるわけないじゃない。」

ママはこちらに背を向けたまま、しらたきを拾っている。

「だって、シャワー口から、しらたき垂れてる…!」

水滴がポタポタと落ちている。

ママはこちらを見ない。


「…実はね、ママね、シャワーからしらたき出せるようになっちゃったの。」

「どうして…」

「わからないのよ、十日ほど前にお風呂掃除してた時にね、今日の夕飯何にしようかなってずっと考えてて…気づいたらバスタブにしらたきが溜まってたの。」

「そんな…」

「どうしてだろうと思って、毎日色々試してたら、しらたきが増えちゃって。」

「…私、しらたき嫌いになりそうだったよ。」

少し、涙ぐんでしまった。

「…ごめんね。もうやめるから。」


その日から、ぱったりとしらたきは夕食に出なくなった。

ママもしらたきのことを口にしなくなったし、私も聞いていない。

でもたまにシャワーからしらたきを出しているママの姿を思い出して、笑ってしまうのである。

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